昭和の古い抵当権が残っている土地は使っても大丈夫?
休眠担保権と不動産登記法第70条の2による抹消手続き

「親族から畑を譲り受けたのですが、登記簿を見たら古い抵当権が残っていました。このまま使っても大丈夫なのでしょうか。」
今回は、親族から農地を譲り受け、これから耕作を始めようとしていた40代男性からのご相談をご紹介します。
ご相談者様は、親族間で土地の名義変更を行った後、念のため登記簿を確認されました。すると、その土地には昭和の時代に設定された古い抵当権が残っていることが分かりました。
登記簿上の記載を確認すると、昔の所有者が、その土地を担保として、ある組合から借入れをした際に設定された抵当権のようでした。借入れの時期は相当古く、現在の所有者であるご相談者様はもちろん、親族の方も詳しい経緯を把握していませんでした。
このような古い抵当権は、実務上、決して珍しいものではありません。
明治・大正・昭和の時代に設定された抵当権、根抵当権、質権、先取特権などが、長年抹消されないまま登記簿上に残っていることがあります。これらは一般に「休眠担保権」と呼ばれることがあります。
古い抵当権が残っていても、土地の使用自体は直ちに禁止されるわけではありません
まず、ご相談者様が最も心配されていたのは、「抵当権が残っている土地を畑として使ってもよいのか」という点でした。
抵当権は、債務者が借入金などを返済できない場合に、債権者が不動産を競売にかけ、その売却代金から優先的に弁済を受けるための担保権です。
そのため、抵当権が登記されているからといって、所有者が土地を使用すること自体が直ちに禁止されるわけではありません。今回のように、畑として耕作すること自体が、ただちに制限されるとは限りません。
しかし、登記簿上に抵当権が残っている以上、その土地には「担保権が付いている」という状態が公示され続けます。
たとえ実際には借入れが完済されていたとしても、登記簿上の抵当権が抹消されていなければ、第三者から見れば、担保権が存在している土地として扱われます。
この点が、後々大きな問題となることがあります。
古い抵当権が残っていると、売却・融資・相続手続きで支障になることも
抵当権が残っている土地は、現在の使用に支障がなくても、将来的な処分や活用の場面で問題となることがあります。
例えば、その土地を将来売却しようとした場合、買主や不動産仲介業者から「抵当権を抹消してからでなければ取引できない」と言われる可能性が高くなります。
また、その土地を担保にして金融機関から融資を受けようとする場合にも、既存の抵当権が残っていると、新たな担保設定の妨げとなることがあります。
さらに、相続や贈与によって次世代に土地を引き継ぐ場合にも、古い抵当権が残ったままだと、相続人や受贈者が将来的に同じ問題を抱えることになります。
つまり、古い抵当権は「今すぐ土地を使えるかどうか」という問題だけではなく、「将来、土地を売れるか」「担保にできるか」「次の世代に問題なく引き継げるか」という不動産の流通性・資産価値に関わる問題なのです。
今回のご相談者様も、現時点では畑として耕作する予定でした。
しかし、将来的に売却する可能性もあること、また次の世代に問題を残したくないことから、「今のうちに抵当権を抹消しておきたい」とのご意向でした。
通常の抵当権抹消登記は、抵当権者との共同申請が原則
通常、抵当権を抹消するためには、抵当権者、つまりお金を貸していた側から、抵当権抹消に必要な書類を受け取る必要があります。
一般的には、金融機関から発行される弁済証書、解除証書、登記原因証明情報、登記識別情報または登記済証、委任状などを用いて、法務局へ抵当権抹消登記を申請します。
現在の住宅ローンを完済した場合などであれば、金融機関から抵当権抹消に必要な書類が交付され、それをもとに司法書士が抹消登記を申請するという流れが一般的です。
しかし、古い抵当権の場合は、そう簡単にはいかないことがあります。
抵当権者が個人であれば、その方がすでに亡くなっており、相続人が多数に及んでいることがあります。抵当権者が法人や組合であれば、すでに解散していたり、清算が結了していたり、当時の関係者と連絡が取れなかったりすることがあります。
今回のケースでも、抵当権者となっていた組合はすでに解散しており、清算も完了していました。
つまり、抵当権抹消のための書類を発行してもらう相手が、現実には存在しない状態だったのです。
休眠担保権の抹消は、従来から実務上の大きな課題でした
このような古い担保権は、一般に「休眠担保権」と呼ばれることがあります。
休眠担保権とは、長期間にわたって行使されておらず、実体上は消滅している可能性が高いにもかかわらず、登記簿上は抹消されずに残っている担保権を指す実務上の表現です。
典型的には、明治・大正・昭和初期などに設定された抵当権や根抵当権などが該当します。
借入金自体はすでに完済されている、あるいは時効により債権が消滅していると考えられる場合であっても、登記簿上の担保権は、抹消登記をしない限り残り続けます。
従来、このような休眠担保権を抹消するためには、抵当権者やその承継人を調査したり、清算人を探したり、場合によっては裁判手続きや供託手続きを検討したりする必要がありました。
そのため、抵当権そのものは古く、実際に請求される可能性が極めて低いように見える場合であっても、抹消登記を完了させるまでに相当の時間と費用がかかることがありました。
特に、抵当権者がすでに解散した法人である場合には、清算人の所在調査や法人登記簿の確認など、通常の抵当権抹消とは異なる調査が必要となります。
令和5年4月より「不動産登記法第70条の2による抹消」が施行
このような問題を踏まえ、令和5年4月1日から、不動産登記法第70条の2に基づく新たな抹消制度が利用できるようになりました。
この制度は、解散した法人が登記名義人となっている一定の担保権について、一定の要件を満たす場合に、不動産の所有者側から単独で抹消登記を申請できるようにするものです。
対象となるのは、解散した法人を登記名義人とする先取特権、質権、抵当権などです。
従来であれば、解散法人の清算人を調査し、清算人から抹消登記に必要な書類を取得することが原則的な流れでした。しかし、清算人がすでに亡くなっている、所在が分からない、法人の実態が全く残っていないといった場合には、手続きが難航することが少なくありませんでした。
不動産登記法第70条の2による抹消制度は、このような実務上の不都合を解消し、古い担保権が不動産の流通を妨げることを防ぐために設けられた制度といえます。
不動産登記法第70条の2による抹消が使える主な要件
もっとも、古い抵当権であれば、すべてこの制度で抹消できるわけではありません。
不動産登記法第70条の2による抹消を検討するためには、少なくとも次のような点を確認する必要があります。
まず、担保権者が法人であり、その法人が解散していることが必要です。
個人が抵当権者となっている場合には、この制度の対象とはなりません。その場合は、抵当権者本人またはその相続人の調査、供託、判決による抹消など、別の方法を検討することになります。
次に、その法人の解散の日から30年を経過していること、また、被担保債権の弁済期から30年を経過していることが必要です。
つまり、単に抵当権の設定時期が古いというだけでは足りず、抵当権者である法人が解散してから30年以上経過しているか、さらに、その抵当権によって担保されている債権の弁済期から30年以上経過しているかを確認する必要があります。
古い登記では、登記簿上に弁済期が記載されている場合もありますが、記載が不十分であったり、現在の登記事項証明書だけでは確認できなかったりすることもあります。そのため、共同担保目録、閉鎖登記簿、過去の登記記録、当時の契約関係を示す資料などを確認しながら、要件を満たすかどうかを慎重に検討します。
さらに、清算人の所在が判明しないことを確認する必要があります。
単に「古い法人だから連絡が取れないだろう」というだけでは足りません。清算人の氏名・住所の確認、住民票や戸籍関係の調査、法人登記簿の確認など、必要な調査を行ったうえで、所在が判明しないことを資料として説明できる状態にしておく必要があります。この制度の趣旨は、解散法人を登記名義人とする古い担保権について、長期間が経過し、清算人の所在も分からないため通常の共同申請が困難な場合に、不動産所有者側から単独で抹消登記を申請できるようにすることであるからです。
このように、不動産登記法第70条の2は便利な制度ではありますが、要件判断や添付情報の整理には専門的な検討が必要です。
実務上確認すべき資料
司法書士がこの種のご相談を受けた場合、まず登記事項証明書を確認します。
抵当権の設定日、受付年月日、債権額、利息、損害金、債務者、抵当権者、弁済期の記載などを確認し、どのような担保権が残っているのかを把握します。
次に、抵当権者が法人である場合には、その法人の登記簿を調査します。
現在事項証明書だけではなく、閉鎖事項証明書や閉鎖登記簿を確認し、法人の解散日、清算結了日、清算人の氏名や住所などを確認します。
また、清算人が個人である場合には、その方の住所や生死、所在の調査が必要となることがあります。
場合によっては、住民票、戸籍、附票、不在住証明書、不在籍証明書などの取得を検討することもあります。
さらに、被担保債権の弁済期を確認できるかどうかも重要です。
古い抵当権の場合、登記簿上に弁済期が記載されていることもありますが、記載内容が不十分なこともあります。その場合には、登記簿以外の資料や当時の契約関係を確認できる資料がないかを検討します。
これらの資料を整理したうえで、不動産登記法第70条の2による抹消が可能かどうかを判断します。
今回の事案での方針
今回のご相談では、登記簿上、昭和の時代に設定された抵当権が残っていました。
抵当権者は法人格を有する組合であり、調査の結果、すでに解散し、清算も完了していることが確認されました。
通常であれば、抵当権者側から抹消書類を受領して共同申請を行うことになりますが、今回のように法人が解散し、清算も結了している場合には、現実に書類を発行してもらうことが困難です。
そこで当事務所では、法人の閉鎖登記簿、抵当権の登記内容、弁済期に関する記載、清算人の所在調査の可否などを確認し、不動産登記法第70条の2による抹消登記の利用可能性を検討しました。
この制度を利用できれば、従来よりも現実的な方法で、所有者側から古い抵当権の抹消を進められる可能性があります。
もっとも、要件を満たすかどうかは、事案ごとに異なります。
抵当権者が法人なのか個人なのか、法人が解散しているのか、解散日からどの程度経過しているのか、清算人の所在が判明するのか、弁済期を証明できるのかなど、複数の事情を総合的に確認する必要があります。
「昔の抵当権だから大丈夫」と放置しないことが大切
古い抵当権が残っている土地について、「昔のものだから問題ないだろう」「借入れはとっくに終わっているはず」「畑として使うだけだから大丈夫だろう」と考えて、そのままにされているケースは少なくありません。
たしかに、古い抵当権が残っているからといって、直ちに土地の使用ができなくなるわけではありません。
しかし、登記簿上に抵当権が残っている限り、その土地には担保権が付いているものとして公示され続けます。
そのため、将来、売却したい、贈与したい、担保に入れたい、相続人に引き継ぎたいという場面で、思わぬ支障となることがあります。
特に、買主や金融機関は登記簿を重視します。
実際には借入れが完済されていたとしても、登記簿上に抵当権が残っていれば、「その抵当権を抹消してからでなければ取引できない」と判断される可能性があります。
また、相続が何代にもわたって進むと、土地の所有者側の相続関係も複雑になり、古い抵当権の抹消とあわせて、相続登記の整理にも時間がかかることがあります。
問題を先送りにすればするほど、調査対象者が増え、必要書類の収集が難しくなることもあります。
司法書士に相談するメリット
古い抵当権の抹消では、単に登記申請書を作成するだけでなく、事前調査と手続き方法の選択が重要です。
登記簿の内容を確認し、抵当権の設定時期、債権額、抵当権者、弁済期などを読み取ったうえで、抵当権者が現在も存在するのか、法人であれば解散しているのか、清算人の所在が判明するのかなどを調査する必要があります。
不動産登記法第70条の2による抹消が使える場合でも、単に「古い抵当権だから抹消できる」というわけではありません。
法人の解散から30年、被担保債権の弁済期から30年を経過していること、清算人の所在が判明しないことなどの要件を確認し、その調査結果を法務局に説明できるよう整理する必要があります。
事案によっては、登記申請にあわせて、調査内容や確認資料をまとめた報告書・上申書等を作成することもあります。
一方で、第70条の2による抹消が使えない場合には、抵当権者またはその相続人との共同申請、供託による抹消、判決による抹消、除権決定など、別の手段を検討する必要があります。
どの方法が最も適切かは、登記内容や関係者の状況によって異なります。
司法書士にご相談いただくことで、現在の登記内容を確認し、利用できる制度や必要な調査を整理したうえで、現実的な抹消方法を検討することができます。
まとめ
古い抵当権が残っている土地であっても、耕作などの使用自体が直ちに制限されるとは限りません。
しかし、登記簿上に抵当権が残っている以上、将来的な売却、贈与、担保設定、相続手続きにおいて支障となる可能性があります。
特に、昭和以前に設定された古い抵当権や、抵当権者がすでに解散した法人・組合である場合には、通常の抵当権抹消登記とは異なる専門的な検討が必要です。
令和5年4月からは、不動産登記法第70条の2に基づき、一定の要件を満たす解散法人の担保権について、所有者側から抹消登記を申請できる制度が利用できるようになりました。
この制度により、これまで手続きが難航しやすかった休眠担保権についても、抹消を進めやすくなる場合があります。
もっとも、すべての古い抵当権がこの制度で抹消できるわけではありません。
抵当権者の性質、法人の解散状況、弁済期、清算人の所在、登記簿上の記載内容などを個別に確認する必要があります。
「昔の抵当権が残っている」
「相続した土地に見慣れない担保権が付いている」
「売却前に古い抵当権を抹消したい」
「親族から譲り受けた土地の登記内容がよく分からない」
このような場合には、そのまま放置せず、早めに司法書士へご相談ください。
当事務所では、古い抵当権・休眠担保権の抹消登記、相続登記、贈与による名義変更、不動産売却前の登記整理など、不動産登記に関するご相談を承っております。
登記簿を確認して気になる権利が残っている場合や、土地を将来安心して活用・処分できる状態にしておきたい場合には、どうぞお気軽にご相談ください。
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